本研究では一行政区(川崎市)全域にわたるMPSS搬送プロトコールの実施とその事後検証により市民による救急要請から病院到着までの時間(覚知-病着時間)を有意に短縮させたことを示したものです。
 2009年3月から2013年3月までの4年間に川崎市消防局により前向きに記録されたすべてのMPSS搬送事案2049件(年齢70.4 ± 13.2、男 64.3%)を解析しています。各年度における搬送、治療状況を比較しています(表1)。年齢、性な度に有意差はありませんが市民の救急要請を受けて救急隊が病院に搬送する時間(Detection-to-door time)は、2009年度の平均37.5分から2012年度の33.9分に4年間で3.6分の有意な短縮が見られました。

各年度の覚知-病着時間を散布図で比較すると図 1の通りで、いずれも有意な短縮となっていた。

図1

この間のtPA静注の治療成績を、tPA静注療法後に転帰良好 (modified Rankin Scale score 0または1) となった率は、23.5% から34.8% に有意に改善した(図2)。

図2

 脳卒中の搬送では、週末や祝日は平日よりも搬送時間や治療転帰が悪くなるというWeekend 効果がみられる場合が知られていますので、本論文では対象患者群を平日と週末・祝日に分けて比較していますが、川崎市の脳卒中搬送について、平日入院と週末・祝日入院例との間に、搬送やtPA静注施行率、その転帰を含め有意な差は見られず、週末・祝日による機能低下、転帰低下はないことが示されています。